東京二期会「午後の曳航」ゲネプロ鑑賞レポート (2023年11月24日)
東京二期会「午後の曳航」ゲネプロ鑑賞レポート
⼆期会創⽴70周年記念公演として、2023年11⽉23⽇(⽊・祝)から26⽇(⽇)の4⽇間、⽇⽣劇場にて宮本亞⾨演出によるハンス・ヴェルナー・ヘンツェ作曲のオペラ『午後の曳航』を上演するにあたり⿊⽥房⼦:林 正⼦、登/3号:⼭本耕平、塚崎⻯⼆:与那城 敬 組のゲネプロレポートです。
今回の⼆期会公演では、オペラ『午後の曳航』の決定版ともいえる2005年改訂ドイツ語版の⽇本初演であり、本格的な舞台上演として、日本初演となる。
三島由紀夫の同名⼩説を原作に、戦後ドイツを代表する作曲家ハンス・ヴェルナー・ヘンツェによりオペラ化され、1990年ベルリン・ドイツ・オペラで『裏切られた海(原題:Das verrateneMeer)』のタイトルで
世界初演された。主催の二期会70周年、共催の日生劇場60周年となるメモリアルイヤーの記念オペラとしての上演ということで、期待が膨らむ。
全体的に無調音楽とモノクロの世界観で幕が上がる。
『目』をデフォルメされた今回のキーワードをビジュアルで、登が、⿊⽥房⼦の寝室をつぶさに見続けていく禁断の世界観が、無休動音楽の世界観を貫き、舞台全体を支配していく。
自伝的小説『仮面の告白』で自身を吐露し、1948年、三島は『進路』1月号の「サーカス」(短編)を発表し、〈役所と仕事と両方で綱渡りみたいな〉生活をしていたが、この頃の〈やけのやんぱちのニヒリスティックな耽美主義〉の根拠を自ら俯瞰する欲望が出てくる。その『目』は、登を通して、三島が自分を見るようであり、自身の恥意識を具現化しているようである。
無調性の中に時折垣間見る和声進行に登の心理描写が時に写実的に表現され、指揮のアレホ・ペレスのタクトが、巧みに、新⽇本フィルをリードし、観衆の心のひだを刺激する。
登役の山本耕平は、登の未熟でありながら、憧れが落胆に代わる狂気の様を見事に表現し、テノールの域を超えて役者であった。また、それは、⿊⽥房⼦役:林 正⼦(ソプラノ)、塚崎⻯⼆役:与那城 敬(バリトン)にも同様に言え、林のリリックでありながら、熱っぽさと、色気漂う紅一点の演出効果もあり、林正子のソロシーンは、そこだけ一瞬でカラーに代わる世界観が広がる、また、『男の逞しさ、男くささ』を表現しなければいけない塚崎⻯⼆役:与那城 敬は、持ち前のブリリアントな歌声とともに、今回の役つくりの為に、肉体改造にも挑んだのではないか、と思われるような、肉体を披露し、林を魅了する傍らで登を魅了する身体を張って演じ、その歌唱で表現しつくした、このオペラがドイツで初演された1990年頃のオペラ歌手にありがちな豊満な歌手はそこにはなく、そぎ落とされた役者であり、オペラ歌手がともに降臨させた今上演は、この作品に覚醒の感を観客に与えたのではないだろうか。
また、宮本亞⾨演出にありがちな、『動かしすぎ』が、今回は功を奏した形で現れた。単調になりがちな無調音の世界とモノクロは、時にマニエリスムになりがちだが、宮本亞⾨の演出による、動かしすぎが今回は当りだった。
しかし、息が上がるほどに動きを演じる歌手は大変であったろうことは容易に想像できる。
脇を固める歌手陣の声質、声域のバランスも良く、主役3人のワールドと1号 友清 崇、2号 久保法之、4号 菅原洋平、5号 北川⾠彦、に『さし色』を入れることにより、男たちの悪の表現にメリハリが出た。また、ダンサーのおどろおどろしい、スパイダーマイムが、素晴らしく、彼らが場面転換の黒子にもなるという表現手法は、無休動ドラマを阻害することなく、自然に時の経過、登の心情変化過程を音楽と同時に視覚に訴える効果があった。最近も、2020年12⽉にシモーネ・ヤングの指揮によりウィーン国⽴歌劇場で上演され、評価を⾼めている作品であることからも、この作品が上演を重ね、熟成していくことを願う。
《⼆期会創⽴70周年記念公演/⽇⽣劇場開場60周年記念公演》
東京⼆期会オペラ劇場NISSAY OPERA 2023提携
『午後の曳航』(2005年改訂ドイツ語版 ⽇本初演)〈新制作〉
オペラ全2幕 ⽇本語字幕付原語(ドイツ語)上演
原作:三島由紀夫『午後の曳航』
台本:ハンス=ウルリッヒ・トライヒェル
作曲:ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ
会場:⽇⽣劇場
公演⽇:2023年11⽉23⽇(⽊・祝) 17:00、24⽇(⾦) 14:00、25⽇(⼟) 14:00、26⽇(⽇) 14:00
※開場は開演の30分前上演予定時間:約2時間30分(休憩を含む)
指揮:アレホ・ペレス
演出:宮本亞⾨
舞台美術:クリストフ・ヘッツァー照明:喜多村 貴映像:バルテック・マシス
振付:avecoo 演出助⼿:澤⽥康⼦、成平有⼦
舞台監督:幸泉浩司、蒲倉潤公演監督:⼤島幾雄公演監督補:佐々⽊典⼦
配役: 11/23(⽊・祝)/25(⼟) 11/24(⾦)/26(⽇)
⿊⽥房⼦ 林 正⼦ 北原瑠美
登/3号 ⼭本耕平 新堂由暁
塚崎⻯⼆ 与那城 敬 ⼩森輝彦
1号 友清 崇 加⽾ 徹
2号 久保法之 眞⼸創⼀
4号 菅原洋平 髙⽥智⼠
5号 北川⾠彦 ⽔島正樹
航海⼠ 市川浩平 河野⼤樹
管弦楽:新⽇本フィルハーモニー交響楽団
チケット料⾦(全席指定・税込)
●11⽉23⽇(⽊・祝) 、25⽇(⼟) 、26⽇(⽇)公演
S17,000円A13,000円B9,000円C6,000円学⽣2,000円
●11⽉24⽇(⾦)公演 平⽇マチネ・スペシャル料⾦
S16,000円A12,000円B9,000円C6,000円学⽣2,000円
チケットのご予約・お問合せ:⼆期会チケットセンター
TEL.03-3796-1831(⽉〜⾦=10:00-18:00/⼟=10:00-15:00/⽇・祝=休)
インターネットご予約は、「⼆期会チケット」で「検索」http://www.nikikai.net/ticket
(坂田 康太郎 2023/11/24)